高血圧・動脈硬化

カルシウム不足が高血圧を招く理由

カルシウム」は不足すると更年期以降の女性に多い「骨粗しょう症」や

高血圧」の発症に影響する大切なミネラルの1つです。

しかし、すでに高血圧の治療を受けている人の中には、

降圧剤の一種「Ca拮抗薬」によってカルシウムが作用しないようにしている人もおり、

「摂らない方が良いのでは?」と疑問に感じる人もいるかもしれません。

ここでは、カルシウム不足と高血圧の関係を解説し、

他の栄養素との作用効果的な摂り方について詳しく紹介しています。

 

カルシウムの役割

カルシウムというと“骨”のイメージが強いですが、体内では骨格だけでなく、

情報伝達のシグナルとしても用いられる、非常に重要なミネラルです。

成人の体内のカルシウム量は1~1.2㎏もあり、その98~99%が骨と歯に存在しています。

そして、残りのわずか1~2%が、脳や神経の作用、筋肉による運動、血液の凝固、消化吸収など、

様々な生命活動を支えているのです。

そして、骨に存在するカルシウムは、

体内に分布する1~2%のカルシウムを維持するための“一時保管場所”としても機能しています。

生命活動を支える分のカルシウムは、足りなくなった時のために骨として貯蔵され、

必要に応じて骨から放出されているわけですね。

ここで注目したいのは、カルシウムの働きの1つである「筋肉との関係」です。

高血圧の発症は筋肉の収縮が大きな要因となっているので、まずはこの点について解説しましょう。

 
筋肉は、神経から刺激を受けると筋小胞体の中に蓄えていたカルシウムを放出し、

このカルシウムが筋線維を構成する細胞に取り込まれることで収縮します。

この仕組みは、血管壁の外側を構成する「血管平滑筋」という筋肉でも同じです。

血管は、交感神経から放出される「ノルアドレナリン」という物質によって刺激を受けると、

平滑筋の細胞がカルシウムを取り込んで収縮が起こるのです。

 
では、血管が収縮すると血圧が上がるのはなぜでしょう?

血圧とは“血液が血管を押す力”のことで、「血液の流れやすさ」と「血液の量」で決まります。

血液が流れにくいと“ゴミの詰まったホース”のように圧力は高まりますし、

血液の量が多いと満員電車のような“ぎゅうぎゅう詰め”になって内部の圧力が高まる…

つまり、血圧が高くなるというわけです。

カルシウムを受け取って血管が収縮すると、血管の内径が狭くなりますから、

血液が流れにくくなって高血圧になるのです。

実際のところ、高血圧患者と血圧正常者を比較すると、

血管平滑筋の細胞内のカルシウム濃度は高血圧患者の方が高いことが知られています。

この現象のメカニズムは明らかにされていませんが、

高血圧の人は何らかの要因によって血管平滑筋にカルシウムが流れ込みやすいため、

血圧が上昇してしまうと考えられています。

 
そこで、高血圧症の治療を受けている人の中には、

カルシウムが血管平滑筋に作用しないようにするCa(カルシウム)拮抗剤」を飲んで、

血圧を下げている人もいると思います。

このため、薬の作用イメージから

「カルシウムの作用を阻害する薬を飲むと血圧が下がるのだから、

カルシウムは摂らない方が高血圧に良いのではないか

と考えてしまう人も少なくありません。

しかし、それは大きな勘違いです。

カルシウムを摂らないと、逆に高血圧を発症する原因となることがわかっているのです。

その理由について、次項で詳しく見ていきましょう。

 

カルシウムと高血圧の関係~『カルシウム・パラドックス』

「カルシウムが作用すると血圧が上がるのに、カルシウムが不足しても血圧が上がってしまう」

…この背景には、「カルシウムが不足すると、血液中のカルシウム濃度が上昇する」という

一見矛盾した作用があるからで、これを『カルシウム・パラドックス』と呼んでいます。

では、なぜこんな不思議な現象が起こり、結果的に血圧が上がってしまうのか、説明しましょう。

 
体内のカルシウムは、前述の通り、生命活動に欠かせない様々な働きを持っています。

そのため、必要な時に必要な量を供給できるように、

血液中のカルシウム濃度はかなり厳密に保たれています

しかし、食事からのカルシウム摂取量が減少し、血液中のカルシウム濃度が低くなってしまうと、

生命維持に必要な濃度に戻すために、

副甲状腺から『パラトルモン』というホルモンが分泌されるようになります。

パラトルモンは、貯蔵場所である“骨”からカルシウムを放出させる一方で、

腎臓でカルシウムを再吸収するように働きかけます。

ところが、慢性的なカルシウム不足だとこの状態が続き、

結果的に血液中のカルシウム濃度が高まってしまうという現象が起こるのです。

そして、血管平滑筋にカルシウムが供給され、収縮が起きやすくなってしまうというわけなのです。

その上、血管が収縮して血流が悪くなると、体は全身に血液を滞りなく供給しようとするため、

心臓を強く拍動させて血流を促進しようと働きかけます。

これでは余計に血圧が上昇してしまいますね。

加えて、血液中のカルシウム濃度が高い状態が続くと、カルシウムが血管壁に沈着して石灰化し、

血管を狭く硬くする「動脈硬化」を引き起こすきっかけにもなってしまうのです。

動脈硬化を発症すると、血液が流れにくくなってしまうので、これも血圧を上げる要因になってしまいます。

 
このように、カルシウムの不足が高血圧を招くことは医学界では当たり前の話なのですが、

「Ca拮抗剤」のような作用の一部だけを知っていると、

「カルシウムを摂らない方が良い」という勘違いをしてしまうのも無理のないことです。

しかし、「Ca拮抗剤」の添付文書にはカルシウムの摂取を制限する文言は一切ありませんし、

カルシウム・パラドックスのような生理現象を防ぐためにも、

しっかりとカルシウムを摂った方が良いのは明らかです。

事実、日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン』においても、

カルシウムの積極的な摂取を呼び掛けています

カルシウムには単独でなく、他の物質と関係して血圧へ影響するものもありますので、

次項も併せてご覧ください。

 

他の栄養素との作用

カルシウムが影響して血圧を上げてしまうとき、背景に他の栄養素が関わっている場合もあります。

このような栄養素の例として、「ビタミンD」や「ナトリウム」が代表的です。

それぞれ見ていきましょう。

ビタミンD

ビタミンDは水には溶けない“油溶性”のビタミンで、

私たちの体内でもコレステロールから合成することができますが、その量だけでは不足するため、

食事から摂取する必要がある栄養素です。

免疫反応にも関わりますが、主な働きはカルシウムの吸収を促進することです。

詳しいことはわかっていませんが、

カルシウムを吸収・運搬する際に結合する「カルシウム結合タンパク質」を機能させるために

ビタミンDが必要とみられています。

 
ビタミンDには

  • 小腸でのカルシウム吸収の促進
  • 腎臓でのカルシウムの再吸収の促進

を行う作用があり、血液中のカルシウム濃度を一定に保つことに関わっています。

このため、ビタミンDが欠乏するとカルシウムも欠乏して、骨の形成に異常が見られるようになり、

子どもでは“くる病”、成人では“骨軟化症”や“骨粗しょう症”を引きおこすといわれています。

もちろん、カルシウム・パラドックスの引き金となり、高血圧を招くことにもなりかねませんから、

ビタミンDの摂取を心掛けるようにしましょう。

ナトリウム

食塩の主成分である「ナトリウム」は、

摂り過ぎると水分を体内に引き留め、血液量を増やすことで血圧を上昇させてしまう栄養素です。

すでに高血圧を患っている人の中には減塩生活の指導を受けている人も多いと思いますが、

ナトリウムの弊害はこの点だけではありません。

実は、塩分の多い食事をする人には高血圧だけでなく、

尿路結石や骨粗しょう症などのカルシウムが排出されることで起こる疾患を発症しやすい傾向があることが

報告されていました。

このことから、ナトリウムの摂取量とカルシウムの排出量に関係があると考えられてきましたが、

実際に、塩分過多傾向にある高血圧患者の尿では、

ナトリウムとともにカルシウムも排出されていることが確認されています。

つまり、ナトリウムを過剰摂取することで体内のカルシウムが余計に排出され、

カルシウム・パラドックスを招く要因にもなってしまうのです。

 
一方、カルシウムを多く摂るとナトリウムが多く排出でき、血圧の降下作用があることもわかってきました。

このため、日本高血圧学会ではナトリウムの摂取を控えるとともに

カルシウムの積極的な摂取を推奨しています。

 

カルシウム摂取量の目安

厚生労働省が推奨するカルシウムの量は、

 
一日あたり 成人男性 650~800㎎
 
      成人女性 650㎎
 

とされています。

しかし、実際の摂取量は日本人の平均で男性520mg、女性489mgとなっており、

過去にさかのぼっても推奨量を上回ったことがないという統計結果がありますから、

日本人は慢性的なカルシウム不足に悩まされていると言えるでしょう。

さらに、中高年になるとカルシウムの吸収率が低下してくるため、

説によっては1日あたり1000㎎を推奨する声もあります。

カルシウムはよっぽどのことがない限り過剰症にはなりにくい栄養素ですが、

腎臓に負担を掛けることがあるため、腎疾患のある人は医師の指示に従って摂取するようにしてください。

 

カルシウムを多く含む食品

このように血圧の安定に欠かせないカルシウムですが、

非常に吸収率の悪い栄養素であることが知られています。

例えば、成人が食事からカルシウムを1g(=1000mg)摂取したとします。

このうち小腸で吸収できるのは300㎎で、残りの700㎎は便として排出されます。

しかし、吸収した300㎎のうち200mgは胆汁中に排出されてしまい、

このうちの50㎎が小腸で再吸収されるという経緯をたどります。

つまり、1000㎎のカルシウムのうち最終的に体内に吸収できるのは150㎎、

わずか15%ということになります(諸条件による変動あり)。

ですから、食品から必要量を摂るには、カルシウム豊富な食材を選ぶことも重要になってくるわけですね。

 
では、カルシウムが豊富な食品の一覧を見ておきましょう。

必ず次項も併せてお読みくださいね

 

《カルシウム豊富な食品の例》
分類 食材の例
動物性乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズ)、小魚類(イワシ、シシャモ、シラス干し)、
甲殻類(サクラエビ、佃煮)、貝類(シジミ、ハマグリ)、卵など
植物性大豆製品(油揚げ、がんもどき、厚揚げ、ゆで大豆、納豆)
シソ、大根・カブ(葉)、小松菜、ケールなど

 

効果的な摂り方

カルシウムが不足すると血圧が高くなり、たっぷりと摂ることが高血圧の防止に役立つといっても、

カルシウムは吸収しにくい栄養素です。

前項で“カルシウムの豊富な食材”を紹介しましたが、これを摂ることが“効果的な摂り方”なのか…というと、

実は、ここにも1つ問題があるのです。

なんと、カルシウムは“由来する食品によって体内での吸収率が異なる”のです。

条件により変動しますが、

「ミルクカルシウム」と呼ばれる牛乳由来のカルシウムが最も吸収率が良く、30~50%程度、

他のカルシウム類はほとんどが10~20%程度と考えられています。

つまり、前項で紹介したのは“食品中のカルシウムの含有量が多いもの”であって、

体内への吸収率は考慮されていないのです。

例えば、カルシウム豊富な小魚などは、ほとんどが骨に由来するカルシウムなので、

食材中のカルシウム量は多いものの、吸収率を考えるとそれほど多く利用できていないと考えられています。

 
「それなら吸収率のよい乳製品をたくさん食べれば良いのでは…」と思う人もいるかもしれません。

しかし、これはNGです。

確かに、乳製品のカルシウムは吸収率に優れているのでおすすめの食材ではありますが、

同時にカロリーや動物性脂肪・コレステロールなども多く摂取することになってしまいます。

諸説あるものの、これらは高血圧を悪化させる「肥満」や「動脈硬化」を招く可能性もあるので、

注意が必要です。

この点を踏まえると、乳製品でおすすめなのは「無脂肪のプレーンヨーグルト」「低脂肪乳」などを中心に、

塩分・脂肪分を摂り過ぎないよう「少量のチーズ」を食べたり、

シチューやグラタンなどに「スキムミルク(脱脂粉乳)」をプラスしたりする方法が、

効率の良いヘルシーな摂り方と言えるでしょう。

逆に、吸収率は下がってしまいますが、

イワシ」などの魚油にはコレステロールを下げるDHAやEPAが含まれているので、

血圧を下げる効果も期待できます。

大豆製品」も食物繊維が豊富なためナトリウムの排泄を促進するので、血圧降下が期待できますよ。

 
同時に、カルシウムの吸収を促進する「ビタミンD」の摂取も心掛けましょう

イワシの丸干し」「シラス干し」などはカルシウムも含む上に

ビタミンDの含有量が全食材の中でもトップクラスです。

両方を一度に摂れる食材ですので、ぜひメニューにプラスしてみてください。

ただし、塩分量も多いので、気を付けてくださいね。

 
また、普通の食生活を送っていればビタミンD不足になることはないと言われていますが、

これは体内で合成される分のビタミンDも考慮した場合ということを知っておきましょう。

この場合、忘れてはいけないのが「日光を浴びること」。

実は、ビタミンDは日光に含まれる“紫外線”によって、体内でコレステロールから作ることができます。

カルシウムをせっかく摂ってもビタミンDが不足していると吸収できませんから、

食材から摂るだけでなく、日光を浴びて体内でも合成できるように心掛けましょう。

紫外線というと女性は“シミ・シワの敵”と敬遠しがちですが、

ビタミンDの合成に必要な日光浴は

 
午前10時から午後3時の日光で、週に2回以上、5~30分
 

と言われています。

日焼け止めを塗ってしまうと効果が得られないので注意が必要ですが、

週に数日は洗濯干しや買い物・通勤などの時間を利用して日光浴すると良いでしょう。

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