高血圧・動脈硬化

気をつけよう!妊娠中の高血圧

重篤な合併症を伴うこともある高血圧ですが、

妊娠という特別な状態にある女性にとっては、さらに多くの危険をもたらす可能性があります。

高血圧は母体のみならず、赤ちゃんにも影響する可能性を孕んでいるのです。

ここでは、日本産科婦人科学会・日本妊娠高血圧学会および同ガイドライン(2009年版)に基づいて、

妊娠中の高血圧に関する情報をわかりやすくお伝えします。

 

妊娠高血圧症候群とは

日本人の妊婦のうち約4%が「妊娠高血圧症候群」にかかると言われています。

約20人に1人が発症する病気ですから、少なくない数字ですね。

日本人全体でみても高血圧というのはありふれた症状ですが、

冒頭で触れたように、妊娠中の高血圧は特にリスクが高くなるため、

通常の高血圧症と区別され、「妊娠高血圧症候群」と呼ばれています。

妊娠高血圧症候群は、2004年以前は「妊娠中毒症」と呼ばれていた病気ですが、

病名が変更されたのと併せて新たに診断基準が設けられ、現在に至っています。

まずは、病気の概要について詳しく見ていきましょう。

診断基準

日本産科婦人科学会では、「妊娠高血圧症候群」を

「妊娠20週以降、分娩後12週まで高血圧がみられる場合、

または、高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで、

かつこれらの症状が単なる妊娠の偶発合併症によるものでないもの」

として定義しています。

ここでいう「高血圧」「蛋白尿」とは、軽症・重症によって次の値が示されています。

 

《妊娠高血圧症候群の軽症・重症について》
軽症 重症
血圧がいずれかに該当する場合
収縮期血圧 140mmHg以上160mmHg未満
拡張期血圧 90mmHg以上110mmHg未満
血圧がいずれかに該当する場合
収縮期血圧 160mmHg以上
拡張期血圧 110mmHg以上
蛋白尿が300mg/日以上で2g/日未満の場合
(原則24時間尿を用いた定量法で判定)
蛋白尿が2g/日以上の場合
(随時尿を用いる場合は複数回の新鮮尿検査で、
連続して300mg/㎗以上の場合)

女性は40代くらいまで血圧が低めの人が多いですから、かなりの上昇と捉えられます。

アメリカでは妊娠前と比較して収縮期血圧30、拡張期血圧15mmHg上昇した場合も含まれていますから、

妊娠後の急激な血圧上昇も該当するということですね。

なお、健康な人は尿中にタンパク質が排出されることはありません。

定義では“妊娠20週以降”となっているものの、実際は妊娠32週以降に発症するケースが多いようです。

ただし、妊娠32週未満で発症する「早発型」のケースでは、

重症化しやすく十分な注意が必要とされています。

 
かつて「妊娠中毒症」と呼ばれていた時代には、

高血圧・蛋白尿の他に「むくみ(浮腫)」も診断基準に含まれていましたが、

正常な妊婦にも見られるため、病名の変更と共に「むくみ」の症状は除外されています。

名称が変更されたのは、様々な研究によって、

母体や赤ちゃんの障害に直接関係している異常は「高血圧」が中心であることがわかってきたためです。

ですから、蛋白尿やむくみが見られたとしても、

血圧が正常であれば母子ともに大きな異常が起こる可能性は低いということです。

それだけ妊婦の「高血圧」は慎重に対応すべき状態ということができます。

名称も、それを言い表す形で「妊娠高血圧症候群」と改称されたわけですね。

原因

さて、これだけ危険視される「妊娠高血圧症候群」の原因は一体何なのでしょうか?

実は「よくわからない」というのが現状です。

ただし、最も有力な説として、

「胎盤が形成されるときの“血管の作り直し”がうまくできないこと」が原因と考えられています。

どういうことなのか、詳しく説明しましょう。

 
ヒトの胎盤は、受精卵が子宮内膜に着床すると形成され、

赤ちゃんに酸素や栄養などを供給し、ホルモンを産生する大切な器官です。

赤ちゃんの絨毛(じゅうもう)と呼ばれる膜の一部が、母体の子宮にくっつくことで形成されていきます。

胎盤の細胞は子宮の壁に潜り込んでいき、子宮の血管の一部を壊して、

赤ちゃんの方へより多くの血液が流れるように血管を作り直していくのです。

 
このとき、何らかの原因で“血管の作り直し”がうまくいかないと、

母体から赤ちゃんへの必要な物質の行き来が不十分になり、赤ちゃんの発育が悪くなります。

すると、母体は赤ちゃんへ血液を送り届けようとして血圧を高めていきます

今のところ、これが妊娠高血圧症候群の発症するメカニズムだと考えられているのです。

加えて、妊娠中は血液量が通常の1.3~1.5倍くらいに増えています。

その血液は赤ちゃん側へ供給されることを前提に増えていますから、

それが赤ちゃん側へ流れないとなると、母体側に占める血液の量が増えてしまうことになり、

余計に血圧が上がってしまうのです。

また、胎盤のところで血流が滞っていることにもなりますから、

胎児への影響はもちろん、母体にも血行不良による様々な影響が生じてきます。

その分、妊娠・出産・産後を通して、予断を許さない“ハイリスクな出産”となってしまうのです。

 
なお、血管の壁の作り直しがうまくいかない理由については明らかになっていませんが、

一説によると、子宮の環境や遺伝などが原因とされています。

 

高血圧による妊娠への影響

妊娠高血圧症候群になった場合、いちばん気になるのは

高血圧が赤ちゃんや自分自身にどのような影響を与えるのか」という点だと思います。

これに関しては難しく、

発症したからといって必ずしも赤ちゃんに影響が生じるわけではありませんし、

母体の血圧が正常でも赤ちゃんの発育がスムーズでないケースもありますから、一概には言えません。

ただし、妊娠高血圧症候群であると、

正常な血圧の妊婦よりも赤ちゃんの発育や母体への影響が生じやすい傾向があることは確かです。

では、どんな影響が起こりやすいのか、母体と赤ちゃんそれぞれで詳しく見ていきましょう。

母体の症状

妊娠高血圧症候群を発症しても、実は自覚症状はほとんどありません

そのため、多くは妊婦検診で発見されるようです。

外出が大変な時期ではあるものの、妊婦検診の重要性は高く、必ず受けるようにするべきです。

中には、足のむくみ、頭痛、倦怠感、眠気、子宮の張り(収縮)などの症状に気づく人もいます。

 
しかし、自覚症状が乏しくても、母体では様々な変化が生じています。

この多くは、胎盤での血管の作り直しがうまくできなかったことによって酸素交換ができず、

詳細は分かっていませんが、全身の血管の壁が傷つくために起こると言われています。

これによって血管が異常に収縮して血圧が高くなる一方で、

毛細血管などの損傷により腎機能が低下して蛋白尿が出たり、

むくみや腹水・胸水など体液の異常も見られたりするようになります。

他に、血液中の血小板が減少することで出血しやすくなる傾向が見られますので、注意しましょう。

母体におきる合併症

母体内で前述のような現象が見られると、合併症を起こす可能性が生じてきます。

主だったものを紹介しましょう。

子癇(しかん)

子癇とは、異常な高血圧と共に痙攣、意識喪失、視野障害などを起こした状態で、

妊娠中だけでなく、分娩中や出産後にも起こる可能性がある高血圧脳症の1つです。

妊娠高血圧症候群患者の約1%にみられ、妊娠中が50%、分娩中と出産後が50%程度です。

定義としては、

妊娠20週以降に初めて起きたけいれん発作で、

てんかんや脳炎、脳腫瘍、脳血管障害、薬物中毒を原因としないもの

…簡単に言うと、脳の病気や薬剤の影響以外で、

妊娠20週以降に初めて起きたけいれん発作のことと言えるでしょう。

子癇が起こる原因は、急激におこった高血圧によって脳の中の血液が増え、

脳がむくむためと見られています。

この状態が続くと、むくみが進行して脳ヘルニアや脳出血を起こすことがあり、

母体の命に関わることもあります。

常位胎盤早期剥離

出産の前に、正常な位置についている胎盤が剥がれてしまうものです。

妊娠高血圧症候群で起こりやすいと言われていいますが、全妊婦の1%前後でも発症します。

原因も発症のタイミングも不明ですが、

胎盤剥離を起こすと性器からの出血、腹痛、子宮の硬直などが見られ、

出血が多いとショック状態になったり赤ちゃんが亡くなったりするケースもあります。

死亡率は赤ちゃん30~50%、妊婦5~10%と高い数字を示しています。

HELLP症候群

子癇を発症している半数の人に起こりやすい合併症の1つで、全妊婦の0.5%程度でも見られますが、

妊娠高血圧症候群だと4~12%と確率が高くなるものの、因果関係はよくわかっていません。

妊娠の後半からお産の後に発症しやすい疾患です。

症状としては、突発的な上腹部痛、心窩部(みぞおち)痛、嘔吐などが見られますが、

妊産婦の体内では、赤血球が壊れる“溶血”、肝機能の低下、血小板の減少が起こっており、

これらの頭文字をとってHELLP症候群と呼んでいます。

他の病気と区別するのが難しいケースがありますが、

診断が遅れると臓器がダメージを受け、命に関わることがあります。

 
このような合併症が起きた場合、全身の状態や妊娠週数にもよりますが、

最も確実な治療方法は「赤ちゃんをお腹の外に出すこと」です。

状況によっては帝王切開が選択されることもあります。

常位胎盤早期剝離では、お産の後の出血が止まらない場合は子宮を摘出することもあります。

 
なお、妊娠・出産が可能な年齢の女性では、子癇によるものも含め、

脳血管障害の発症頻度が妊娠により1.5倍に増えることが報告されています。

しかも、母体死亡率は9~38%と高いうえに、

仮に生存できたとしても神経系の後遺症が40~63%もあるのです。

脳血管障害は妊婦に限らず高血圧と深い因果関係があることがわかっていますので、

血圧を適切にコントロールすることは、とても大切であることがわかりますね。

高血圧だからといって必要以上に不安になる必要はありませんが、

リスクを理解し、医師の指示に従った生活を送ることが大前提の出産と心得ましょう。

赤ちゃんへの影響

重症の妊娠高血圧症候群では、胎盤での血管の作り直しがうまくできていないため、

赤ちゃんへの血液の供給が深刻な状態になっている可能性が高くなります。

赤ちゃんは母体と胎盤の血液を介して、

必要な酸素や栄養・ホルモンなどを受け取り、老廃物を渡していますから、

これがうまく行えないということは、赤ちゃんの発育に影響が生じる可能性が高くなるのです。

具体的には、重症であると、栄養不足による「胎児発育不全」、

普通よりも体重の少ない赤ちゃんが生まれる「低出生体重児」のほか、

酸素不足により赤ちゃんが「低酸素脳症」になり、脳に影響が及ぶことや、

心拍に異常が起きる「胎児機能不全」になる可能性もあります。

最悪のケースでは赤ちゃんが死んでしまう「子宮内胎児死亡」も起こり得ますので、

帝王切開などにより、赤ちゃんを取り出すことが選択されることもあります。

 

発症しやすい人の傾向と注意点

発生のメカニズムが解明されていない妊娠高血圧症候群ではありますが、発症しやすい傾向はある程度わかっています。

例をあげてみましょう。

【発症しやすい傾向がある人】

  • 肥満
  • 高年齢
  • 病気のある妊婦(高血圧、腎疾患、糖尿病など)
  • 初産婦
  • 多胎妊娠(双子、三つ子など)
  • 前回の妊娠で妊娠高血圧症候群を発症した妊婦
  • 前回の妊娠から5年以上経過している妊婦
  • 初診時の血圧が高い妊婦
  • 感染症(尿、歯周病)がある妊婦
  • 血縁者に発症した人がいる妊婦

特に年齢や肥満には深い関係が見られ、

年齢35歳以上と15歳以下で発症率が上昇、40歳以上ではさらに危険度が増し、

肥満についてはBMI25以上妊娠前の体重が55kg以上だった人は発症しやすい傾向にあります。

ちなみにBMIは肥満度を表す体格指数で、

BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)

で求められ、日本人の標準はBMI=22となっています。

また、血縁者(妊婦の母親や姉妹など)が妊娠高血圧症候群を発症している場合、

他の妊婦に比べてリスクが3倍という報告もあります。

女性の血縁者だけでなく、男性に高血圧症の人がいる妊婦も2~5倍のリスクがあると言われています。

これは遺伝的な要因も無視できませんが、同じ生活環境や食生活などを送っていて

似通った要因(肥満傾向、ストレスなど)を持ってしまう可能性も指摘されています。

そして、もともと高血圧症の人、高血圧傾向(血圧130~139/80~89 mmHg)にある人

妊娠によって発症のリスクが増すことも知っておきましょう。

 

予防・改善・治療の方法について

妊娠高血圧症候群は原因やそのメカニズムが明らかになっていないため、

確かな予防法や治療法は見つかっていません。

一般の高血圧の治療では減塩により改善が見込まれますが、

妊娠高血圧症候群では塩分過剰だと発症しやすい傾向があることはわかっているものの、

減塩しすぎることも危険であることが報告されています。

これは食事によるエネルギー摂取に関しても同様で、

肥満や急激な体重増加は発症の確率をあげる一方、栄養不足も危険なのです。

 
そこで、厚生労働省「健やか親子21」や

日本産婦人科学会「妊娠高血圧症候群の生活指導および栄養指導」では指針として、

妊娠中の体重増加は通常BMI 18.5以上25未満の人でも7~12kg

1日あたり10g以下の塩分制限

を推奨しています。

 
治療については、軽度ならこれらに留意しながら食事をコントロールすることが中心となります。

塩分に関しては、通常の高血圧では6g/日の塩分制限が推奨されていますが、

妊婦は7~8g以下/日を目標にするよう指導されることが多いようです。

高血圧といえども妊娠中は適度な塩分を心掛ける方が良いということですね。

カロリーオーバーして体重が増加しすぎないように気を付けつつ、

定期検診でしっかりチェックしてもらうことを忘れないようにしましょう。

 
また、重症の妊婦は入院して降圧剤(血圧を下げる薬)や子癇を抑える点滴などをして

体調を管理することが必要になります。

通常の高血圧治療では降圧剤を使用して血圧を目標値まで下げるようにしますが、

妊娠中は血圧が下がり過ぎると赤ちゃんに負担を掛けることになるため、

医師による管理下での使用が前提となります。

第2子以降を妊娠している場合、入院となると上の子にさみしい思いをさせることにもなりかねません。

自己管理で完全に予防できるものではありませんが、症状が軽いうちからリスクを少しでも軽減するために

食事や体重の管理などには十分に気を配りたいものです。

なお、妊娠前に降圧剤を飲んでいた人で、

ACE阻害剤、ARB、β遮断薬などを使用していた人は薬の変更が必要になりますので、

かかりつけ医に相談してください。

 
しかし、このような症状の度合いに応じた対応策はあるものの、完全な治療法は確立されていません。

母子に危険が及ぶ可能性が高い場合は、

臨月でなくても帝王切開などで赤ちゃんと胎盤を取り出す決断が下されることは少なくありません。

やはり、いちばんの治療法は出産することなのです。

血流の障害を起こしている胎盤が排出されれば、多くの妊婦が高血圧発症の原因を失くすことができるので、

母体は急速に回復し、血圧も正常値に戻っていきます。

これについては次項も併せてご覧ください。

 

出産後の回復と症状の継続について

出産によって多くの妊婦は回復していきますが、

重度の妊娠高血圧症候群だった人は出産後も高血圧や蛋白尿が見られることがあります。

場合によっては、出産後も降圧剤やけいれんを予防する薬が必要なこともあります。

特に合併症である「子癇」は、前述の通り、出産後も起こりうる病気です。

しっかりと検診を受け、かかりつけ医の指示に従った服薬・生活を送るようにしてくださいね。

 
なお、産後12週(84日)までを妊娠高血圧症候群とし、通常はこれ以前に回復しますが、

経過しても高血圧や蛋白尿が残ってしまう場合は、

妊娠によるものでなく、母体にもともと原因があった可能性が高くなりますので、

詳しい検査を受けることをおすすめします。

また、妊娠高血圧症候群であった人は、次の妊娠でも発症する確率が高まること、

将来的にメタボリックシンドロームを発症する頻度が高いことが報告されています。

血圧が正常値に戻っても、減塩やカロリーオーバーに配慮した食生活を送り続けることが大切です。

特に授乳終了後は太りやすくなりますので、気を付けましょう。

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